本学会として,下記のようなコメントを提出いたしましたので,ご報告申し上げます。
<文化庁文化部国語課提出本文>
「新常用漢字表(仮称)」に関する試案」に対する意見(案)
○はじめに
漢字という生活、及び学習に影響が大きい分野に、継続的に慎重な審議を重ねて来られたことに対して、まず心よりの感謝と敬意とを表します。
私ども全国大学国語教育学会は、国語教育、とりわけ学校における子どもの国語教育の目標・内容・方法等のあり方について、学会の総力を結集して取り組んで参りました。その国語教育の重要な一環として、漢字指導があります。そうした意味からも、漢字指導の基本となる漢字表について多くの関心を払って参りました。このたびの試案についても、頻度、語構成などの観点からの見直しなどで多くの敬意を示しつつ、学校教育とりわけ子どもたちの漢字学習の立場から、意見募集のこの機会を活用して、意見を申し述べることをお許し願いたく思います。以下の2点(字種に関するもの、字体に関するもの)について、引き続きご検討下されば幸甚に存じます。
1 字体に関するもの
(結論)統一して欲しい
(説明) 生活レベルでの漢字は字体の混在が実態かと思いますが、学習する際には、一つの基準が必要です。先刻ご承知のように、学習においては教科書があり、その教科書では児童・生徒の学習のために手書きを想定した教科書体が用いられています。そこで、例えば「しんにゅう」が1点か2点かは、大きな問題になります。試案では、手書きの場合は1点でゆすって書くこととしているので混乱しないという立場だと拝察しますが、手書きと明朝体活字とで画数が異なることは学習の上では好ましくありません。なぜなら、一般に画数が異なることは異字であること((例)大—太—犬)を示すからです。画数は、漢和辞典をひく際の一つの基準です。したがって、漢字学習では画数は大事な要素です。例えば、「謎」は漢和辞典では17画で掲載されていますが、手書きすれば16画になります。1画の差ですが、漢和辞典を画数からひくことはできなくなります。同じような混乱は、手書きの例が二つずつ示されている「捗」や「嗅」などでも起こります。
2 字種に関するもの(質量)
(結論)一部(淫)を再考(削除)して欲しい
(説明)基本的に生活の中に頻出する漢字を学ぶというのは漢字学習の面からも歓迎です。頻度は必要性の一側面でもあるからです。その面では、自然に委ねていても良いことかと思います。が、これを教育のカリキュラムの面から考えますと、何をどの順に学ばせるかは重要な課題です。この「何」に当たるのが字種です。
追加候補漢字の中に、「淫」があります。例示された語も「淫欲」「淫乱」など、きわめて教育的な観点からは指導が難しい漢字です。言葉狩りになってはいけませんが、これを全員が高等学校までで読み書きできなければならない漢字となると課題があると思います。
このほか再考(削除)していただきたい漢字としては、「賭」「呪」「艶」などがあります。理由は上記と同様ですが、これらは使用範囲が少し広いこともあり、「淫」ほど強く削除を希望するものではありません。
○おわりに
学習の場は、特殊の場面であり、別に考えて良いということももちろん考えられます。が、「いま学習していることが将来の生活に生かされる」、「いまの学習もいまの生活の一部」ということを考えますと、学習と生活とが一如であることが求められます。「学習したことは正しくなかった」、あるいは「学習していることとテレビ・新聞、広告等、生活の場で見聞することは違っている」というのは、教育の観点から見たとき、大きな課題になってきます。学校教育における漢字指導に関しては特別の配慮をしていただいているようですが、
教育は別とは言いながら、ここが基準になっていきます。その意味で、この基準にやはり無関心ではいられませんし、この教育の視点も含めて漢字表の字種・字体・音訓の見直し作業を検討していただきたいと思います。